Slack、30超のAI機能で進化——ClaudeがチャットツールをAIエージェントに変える

2026年3月末、SalesforceのCEO Marc Benioffがサンフランシスコで発表したSlackのアップデートは、単なる機能追加ではなかった。30を超えるAI新機能を一気に解禁し、その頭脳として選んだのはAnthropicの「Claude」——Slackはチャットツールからワーク用AIエージェントへの脱皮を宣言した格好だ。
何がどう変わったのか
今回のアップデートで最も象徴的なのは、Slackbotの位置づけが変わったことだ。
これまでSlackbotは、通知を届けたり簡単な質問に答えたりする「補助ツール」に近かった。今回の発表では、複雑な推論を行い、社内データを横断して判断を下す「パーソナルエージェント」として再定義された。Salesforceが「Slackbot – Your Personal Agent for Work」と命名したのは、そのコンセプトの表れだ。
主な新機能は以下の4つが柱になる。
再利用可能なAIスキル: ユーザーが定義したタスクを「スキル」として保存し、繰り返し呼び出せる仕組み。たとえば「予算案を作成して」と打つと、Slackの関連チャンネルや接続アプリのデータを集め、アクションプランを自動生成する。業務フローのテンプレート化、といえば伝わりやすいかもしれない。
会議の自動文字起こし・要約: ZoomなどのWeb会議を文字起こしし、要点と担当アクションをまとめて提示する。途中で席を外した場合も、後から「自分に割り当てられた作業だけ教えて」と聞けばすぐわかる。
デスクトップエージェント: 個人的に最も気になった機能がこれだ。Slack外のデスクトップ操作まで監視し、商談の進捗・カレンダー・行動パターンをもとにフォローアップの下書きを自動生成する。ここまで来ると、副操縦士というより「常に隣にいるアシスタント」に近い。
ネイティブCRM: チャット画面にCRM機能を直接組み込んだ。チャンネルの会話から商談や連絡先を検出し、CRMレコードを自動更新する。Salesforce本体との統合を考えれば、ある意味当然の方向性だが、実装の手間を大幅に省けるのは確かだ。
エンジンがClaudeである理由
今回の発表で技術的に注目すべきは、SlackのAIエンジンにAnthropicのClaudeが採用された点だ。
Slackはこれまで複数のモデルを使い分けていたが、複雑な推論と高速なレスポンスを両立するために、Claude一本に絞った。Salesforceはその理由として「複雑な文脈でも自然な会話ができる推論能力」を挙げている。
また、この連携はAnthropicが2024年に公開したMCP(Model Context Protocol)を基盤に構築されている。MCPはAIモデルと外部ツールを標準規格でつなぐプロトコルで、すでにGitHubやFigma、Canvasなどが対応済み。Slackもその一員に加わった形だ。MCPの普及は、AIが単体で動くのではなく「業務ツール同士をつなぐ糊」になる未来を加速させている。
MicrosoftのCopilotとの差はどこか
この発表を聞いて、Microsoftのことを思い浮かべた人は多いはずだ。TeamsとCopilotの組み合わせは、まさにSlackが今回目指した方向性と重なる。
両者の大きな違いは「統合の深さ」だ。MicrosoftはOffice 365の全スイートとCopilotを結びつけ、Wordの文書やExcelのデータも含めた統合環境を売りにしている。一方SlackはCRM(Salesforce)との接続が強みで、営業・カスタマーサクセス系の業務では一日の長がある。
率直に言えば、純粋な機能比較では今のところMicrosoftが数歩先を行く。しかし「Salesforce×Slack×Claude」の組み合わせは、CRM連動という一点において他社が簡単には真似できない強みを持つ。
チャットツールが「仕事の記憶」になる
今回の発表が示すのは、チャットツールの役割が根本から変わるということだ。
これまでSlackは「会話の場所」だった。ログは増え続けるが、検索しにくく、重要な決定が埋もれる。AIが会話を読んで要約・構造化・CRM連携まで行うなら、Slackは「仕事の記憶装置」になる。ミーティングの決定事項が自動でタスク化され、商談の変化がリアルタイムでCRMに反映される世界だ。
ここで気になるのは、ユーザーのプライバシーとデータ管理だ。デスクトップの行動まで監視するエージェントが業務で使われるとなれば、企業としてのガバナンス設計が不可欠になる。Salesforceは「エンタープライズ向けのセキュリティ基準を満たす」と主張しているが、導入企業側でもポリシー整備が必要になるだろう。
新機能の一般提供は2026年内を予定。まずは大企業向けプランから段階的に展開される見通しだ。
Sources:
- Salesforce announces an AI-heavy makeover for Slack, with 30 new features | TechCrunch
- Salesforce Announces the General Availability of Slackbot – Your Personal Agent for Work | Salesforce Investor Relations
- Slack AI Update 2026: 30+ New Features for Meetings, Sales, and Productivity | eWeek
- Fortune Tech: Salesforce reinvents Slack for AI age | Fortune
- Salesforce's Slack deepens Anthropic's Claude integration | No Jitter
