
チャット画面が実験室になった日 — Gemini 3.1 Proの3Dシミュレーションを試した
「AIに何かを説明してもらう」という行為が、ここ1ヶ月でまったく別の体験になりつつある。
4月9日、GoogleはGemini 3.1 ProのProプランユーザーへのロールアウトを開始した。目玉は3Dモデルと物理シミュレーションのチャット内生成だ。分子構造をその場で回転させたり、スライダーで重力を変えながら軌道力学を眺めたりすることが、テキストプロンプトだけでできる。
これをデモ動画で見たとき、正直「ギミック感があるな」と思った。ところが実際に触ってみると、その印象は少し変わった。
何ができるのか
Geminiのチャット画面で「help me visualize how a double slit experiment works」と打ち込むと、数秒後に「View visualisation」ボタンが現れる。クリックすると、インタラクティブな二重スリット実験のシミュレーションが展開される。スリット幅や波長をスライダーで変えると、干渉縞がリアルタイムで更新される。
対応しているシミュレーションの種類は幅広い。分子モデルの3D回転、スライダーで変数を調整できる軌道力学、二重振り子、フラクタル可視化など。GLP-1受容体活性化の3Dモデルを単一プロンプトから約2分で生成した例では、4,000個のアニメーション粒子が動き回る。
バックエンドでは、GeminiがWebGLとThree.jsのコードを生成してブラウザ上でレンダリングしている。プロセスとしては、Intent Recognition(何を可視化するかの解釈)→ Schema Generation(データ構造の定義)→ Frontend Rendering(Three.jsでの描画)という流れだ。
使えるプランと制約
現状、この機能にアクセスするには条件がある。
無料プランでもGemini Proへの制限付きアクセスはあるが、高負荷時はFlash(軽量モデル)にフォールバックする。Google AI Pro(月額$19.99)でGemini 3.1 Proにアクセスでき、フルアクセスにはGoogle AI Ultra(3ヶ月$124.99)が必要だ。WorkspaceアカウントとEducationアカウントは現時点で対象外になっている。
制約もはっきり存在する。数学的な精度の保証はなく、ライブAPIやデータベースへの接続もない。複雑なシミュレーションではレンダリングが遅延することがあり、モバイルには未対応だ。
学術的な厳密さを求めるなら専用ツールに頼るべきだが、「概念を直感的に掴む」という用途では十分な精度だと感じる。物理の先生がボードに図を描くのと近い役割と考えれば、現時点の完成度は理にかなっている。
1ヶ月で3社が出揃ったビジュアル機能
このGeminiのリリースを興味深くさせているのは、タイミングだ。
3月10日にChatGPTがDynamic Visual Explanationsを発表した。数学・科学の70以上のトピックに対応し、無料プランで使える。2日後の3月12日、ClaudeがインタラクティブなチャートとダイアグラムをArtifactsでレンダリングする機能をリリースした。こちらは全プラン対応だ。そして4月9日のGemini。1ヶ月足らずで三社が横並びになった。
3社の設計思想を比べると、方向性の違いが見えてくる。ChatGPTは対象領域をあえて絞り、数学・科学特化でシンプルさを維持した。Claudeは汎用設計で、AIが自律的に「ここは図にすべきだ」と判断してビジュアルを提案する。Geminiは三者の中で最もリッチな3D体験を目指し、WebGLとThree.jsを使った表現に踏み込んだ。
どれが「正解」かではなく、これだけ短期間に似た機能が三者から出てきたこと自体が、テキスト出力だけでは競争力の維持が難しくなってきた現実を示しているように見える。
3Dが「チャットの標準機能」になる日
歴史的には、データの可視化は常に別のツールの仕事だった。Pythonでmatplotlib、TableauでBI、専用の3Dソフト。それが今、チャット画面でプロンプトを一行打つだけで補完される方向に向かっている。
2025年12月のUltra先行提供から始まり、2026年2月にGemini 3.1 Proがリリース、4月にProユーザーへ展開。Googleがこの機能を段階的かつ慎重に広げてきたことは、単なるデモ機能として扱っていないことを示唆している。
まだモバイルに対応しておらず、精度保証もない。ただ、「概念を素早く可視化して理解の足掛かりを得る」という用途で、チャット内3Dシミュレーションが使いものになるレベルに到達しつつある。テキストAIの限界を超えたというより、テキストAIがビジュアルの領域を飲み込み始めた——そう捉えるほうが正確かもしれない。
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